暮れも押しせまった先日、山梨県の富士山麓、青木ヶ原樹海を訪ねてきました。
青木ヶ原樹海は、今なお自殺者の多い地域として知られています。
私がその深刻さを知ったのは、今から10年ほど前でしょうか、富士樹海で自殺する人があまりに多いため、地元で自殺防止のネットワーク組織が作られ、その様子をテレビで偶然見た時でした。
自殺未遂の男性が、樹海入口の駐車場で警察に保護されている姿が映し出され、その光景が今もはっきりと目に焼きついています。
私がカウンセリングの活動を始める動機となったのが、神奈川県座間市で起きたアパート遺体遺棄事件、そして電通元社員の高橋まつりさんの過労自殺です。
いずれも、若く尊い命が理不尽な理由で失われてしまった、あまりに悲しい社会的な事件でした。
自殺を考えている人にカウンセラーが直接向き合い、命をつなぎとめる場所…
自殺多発の地点で、企図者に声をかける活動をいつしか模索するようになっていました。
師走の29日、東京でレンタカーを借りて中央自動車道を走り、河口湖インターで下りて国道139号線へ。西湖コウモリ穴の駐車場に車を止めました。
ここはすでに青木ヶ原樹海に面しており、広大な樹海が広がり、その中を遊歩道が通っています。
駐車場からまず南に向かって遊歩道や車道を進み、国道を横切って鳴沢氷穴へ。
この鳴沢氷穴は駐車場と売店があり、大変な人の賑わいで、外国人がとても多い印象。それまでの静寂とはかけ離れていました。
売店の奥に遊歩道が延びていますが、その入口に、自殺企図者へ呼びかける看板が目に入ってきます。
富士山の溶岩で形成された、樹海独特の森林地帯の中を進みます。ここから富岳風穴までの道は、ゆるやかなアップダウンを繰り返し、最近降った雪が、地面にだいぶ残っていました。
富岳風穴にも広い駐車場と売店、喫茶スペースがあり、バス停を降りて、ここから樹海に入る人も多いようです。
私が今回、力を入れて歩いたのはこの富岳風穴周辺の遊歩道です。
観光客で賑わっていた風穴から離れ、樹海の道に入っていくと、人はぐんと減って急に静かになります。
この道をこれまでいったいどれだけの自殺企図者が、どんな思いで、歩いていったのか…
樹海の森は、冬でも緑が多く、美しい苔で覆われた原生林が目につきます。そして、無数の細かい起伏が連なって大地が形成されていることに気づかされます。
人の気配はまったくなくなり、静寂が支配する森。企図者ともし出会ったら、どんな言葉をかけたらいいのか…
場所によっては地面が白い雪に覆われ、雪の上には鹿が歩いたと思われる跡がついています。
数時間にわたり森の中をを歩きましたが、結局この日はそれらしき人に出会うことはありませんでした。
しかし遊歩道のすぐ脇に、2輪ほどの花と果物が2つ供えられているのに気づきました。そんなに日も経っていない様子です。
その場所で、静かに手を合わせました。
レンタカーを止めてあるコウモリ穴の駐車場まで戻り、帰りは河口湖畔を走り、東京への帰途につきました。
青木ヶ原樹海をゆっくりと歩くのは初めてでしたが、あらためて富士山麓の自然の奥深さを感じるとともに、この地で自死した人たちの魂に思いを馳せる旅となりました。
この活動は、これからも地道に続けていこうと思っています。
カウンセリングサロンぱすてる