ひきこもり訪問支援 ぱすてる

自分らしく生きるためのカウンセリング

石川清さんのこと

ひきこもりの支援を長い年月されていた石川清さんが、先月お亡くなりになりました。

50代の後半というご年齢で、あまりの突然の訃報に耳を疑いました。

私は石川さんご本人にお会いすることは結局できませんでしたが、そのお名前は、今の支援の仕事を始める当初から聞いていました。

 

ひきこもりの本人が暮らす家庭を個人で訪問し、継続して支援にかかわっていく…私がカウンセラーとして、ひきこもりの支援をするために考えた活動スタイルを、もうすでに20年以上前から実践されている方がいる…それがまさに石川清さんだったのです。

石川さんはその訪問支援の内容をご自身の本にも著していますが、私が知った時その本は入手困難となっており、仕方なく中古本を高価で買いました。

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『ドキュメント・長期ひきこもりの現場から』

石川清・著(洋泉社・絶版)

この本を読むと、石川さんが当事者にどんな訪問をされてきて、どう向き合ってこられたのか、どんな考えを持って活動されていたのかがとてもよくわかります。

石川さんのひきこもり支援は、公的な機関や民間団体の支援とは明らかに異なる特徴がいくつもありました。

 

まず、どこの機関にも属さずに一個人でおこなっていること。

それは、助成金などを受け取らず、制約を受けないで自己資金で自由に活動を続けたいという理由からで、訪問する家庭は、長期化、重篤化したケースが多かったそうです。

次に、愛車のクルマを駆使しての長距離移動による訪問支援であること。地元の埼玉を中心とした関東全域、さらには東北、関西、九州、沖縄にまで足を運んでいたとか。

 

そして石川さんの支援の最大の特徴が、本人と一緒にアジアを中心とした海外に飛び、そこで自由な旅をすることでした。

集団のツアーではなく、ふたりだけの自由旅行。

現地で計画はほとんど立てずに、その場で決めていくやり方。自分自身で決断して、自由に行動する感覚・体験が、心身の成長に絶大な効果があることを著書の中で語っています。

石川さんと一緒にアジアを旅した30代の若者が、その旅をきっかけに親への依存から抜け出し、ひとり暮らしを始めて自活するようになり、それがクチコミで広がっていったそうです。

なぜアジアなのか。石川さん自身が少年時代にフィリピンで生活し、学生時代も休学してフィリピンのスラムでホームステイをしたことが大きく影響しているようです。

 

石川さんの支援に対する考え方で、私もまったく同じ考えだと思ったのが、いわゆる「引き出し屋」と呼ばれる暴力的な支援組織のおこなう強引な手段をとらずに、本人を中心にして解決につなげていこうとする姿勢です。

暴力的、抑圧的な介入は、本人はもちろんその家族にも取り返しのつかない問題を生じさせる危険があり、人権問題としても許されない蛮行であると思います。

石川さんが長きに渡っておこなってきた支援は、本人と固い信頼関係をつくり、密にかかわり続け、本人が元気で幸せな人生を送れるようになるために、寄り添っていくことでした。

訪問件数は多い時には年間800回から1000回におよび、月におよそ2000キロを車で移動していたそうで、その驚異的な行動と実践に敬意を払うとともに、お体にはかなりの負担がかかっていたのではないかと察します…

 

最後に、著書に書かれたこの文章をご紹介して、石川清さんを心から追悼したく思います。

「いちばんの問題や課題があるとすれば、それはひきこもりの当事者の側ではなく、やはり社会の側のひきこもりに対する理解のなさ、そして人間に対するリスペクトのなさではないかと考えている。」

 

カウンセリングサロンぱすてる

傾聴カウンセラー 喜々津博樹

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