ひきこもり訪問支援 ぱすてる

自分らしく生きるためのカウンセリング

東尋坊をたずねて

この夏、福井県東尋坊をたずねてきました。

この地で長年にわたり、自殺防止の活動を続けている茂幸雄さんとその仲間の方々にお会いし、活動の現場に実際に触れることがその目的でした。

 

東尋坊を訪ねるのは私にとって丸4年ぶりになります。

初めて訪ねたのが2019年の8月。その年の春からカウンセリングの活動をボランティアで始めたのですが、東尋坊の断崖でまさに今自殺しようとしている人に声をかけている茂さんたちの存在を知り、ぜひ実際にお会いして話を聴いてみたくなりました。

 

連絡をするとすぐに返事をいただき、NPO法人の代表である茂さんと事務局長の川越みさ子さんのお2人を中心に、地元のメンバーの方々が温かく迎えてくれました。

見回り活動に同行し、現場のお話を聴かせてもらったり、夜は福井市内の居酒屋で美味しい料理とお酒をご馳走になったりと、2日間とってもお世話になりました。

 

翌年もぜひまた訪ねたいと思っていましたが、折りしもコロナ禍となってしまい、断念せざるを得ませんでした。それからなかなか再訪する機会を掴めずにいましたが、コロナの状況も変化してきており、今年こそ動かなければいつまで経っても行けないと思い、東尋坊への旅を計画しました。

 

茂さんは福井県の警察官でしたが、定年退職を翌年に控えた2003年、東尋坊を管轄する三国警察署(現・坂井西警察署)に赴任し、この地の自殺者の多さを現場で目の当たりにしたそうです。

しかし地元では何の対策もとられておらず放置されていることに疑問を抱き、勤務時間外に自主的にパトロールを開始しました。そして警察官を退職した2004年の春に、自殺防止を目的とする民間のNPO法人を立ち上げました。

 

茂さんとそのお仲間が作った「NPO法人  心に響く文集・編集局」には、いくつもの特色があります。

東尋坊の土産物屋が並ぶ通りの一角に、活動拠点となる茶房「心に響くおろしもち」を開設。ここは東尋坊で声をかけた人たちのお話を聴く相談所であるだけでなく、地元のお米を使ったつきたての美味しいお餅や食べ物、ドリンクを訪れた人にふるまう憩いの場になっています。


住む場所や帰る場所さえも失った状態の人には福井市内にシェルターを用意し、仮住まいを提供しています。

そして私がさらに敬意を抱くのは、茂さんたちが日々の活動を丁寧に記録するだけでなく、その記録や考えを書籍としてまとめ、自費出版も含めて何冊も本を出して世に問いかけていることです。

自殺防止の活動は日本の他の地域でもおこなわれていますが、その活動の様子を商業出版という形で継続的に著している団体は、おそらく茂さんたちのNPOだけでしょう。

 

8月24日早朝、上野駅から北陸新幹線に乗り、金沢で在来線に乗り換え、芦原温泉駅で下車。そこからバスに揺られ、4年ぶりに東尋坊に入りました。

茶房で茂さんと川越さんに久しぶりに再会しましたが、そこにはかつて電話でお2人に助けを求め、今はお店を毎日手伝っているという男性の姿もあり、こちらから自己紹介をして挨拶しました。

 

今日までのおよそ19年間にこの東尋坊で命をつないできた人数は803人を数え、この8月もすでに3人の方を保護しているとのことでした。

また、コロナが始まった年は声をかける人は少なくなったけれど、時が経つにつれ東尋坊にやって来る人がだんだんと増えて、相談件数も多くなっていったことを話してくれました。

この日の午後は見回り活動を交代でしているメンバーの方々と一緒に、東尋坊の遊歩道、岩場、松林の中を歩きました。メンバーの方々は定年後にこの活動を長く続けていたり、最近活動に加わった女性の方もいました。

東尋坊の断崖でも特に事故の多い地点があり、その場所に腰かけ、しばし佇みました。海岸に降りてみると、一束の枯れた花束が紙に包まれた状態で、岩の上に横たわっていました。

この夏の異常ともいえる暑さはこの北陸地方も例外ではなく、日本海の海べりを歩いていると汗をびっしょりとかきます。夏休みということもあり、遊覧船が入り着く岩場付近は家族連れなど多くの観光客で賑わっていました。

 

その夜は茂さんと川越さんのお2人と福井駅前で4年ぶりに酒席を共にさせていただき、またたくさんご馳走になってしまいました。

翌朝は福井駅からえちぜん鉄道に乗り、終点の三国港駅まで行き、海沿いの荒磯遊歩道を歩いてから茶房にお邪魔しました。現在シェルターで暮らしているという男性がお店を手伝いに来ていて、挨拶を交わしました。

 

この日は、愛知県の津島市から更生保護女性会という団体が研修で東尋坊を訪ねてきていました。私も飛び入り?で研修に参加させてもらい、茂さんの講演を生で聴かせてもらう機会に恵まれました。

「自殺は覚悟の死ではなく、追い詰められた末の死なんです。私たちが岩場で声をかけて、そこから飛び込んだ人は今まで1人もいません」

茂さんが力強く、はっきりとみんなに語りかけました。

茶房「心に響くおろしもち」の前で、茂さんと一緒に。

わずか1泊2日の旅でしたが、今回も心に深く刻まれる、忘れられない旅となりました。

この東尋坊という地に、心疲れ果て、命を投げ出そうとやってくる人が今もたくさんいるという現実。そして、そんな人たちの命をつなぎとめる活動を続けている人たちが、たしかにいるのです。

 

東尋坊は、今の日本社会の現実を映し出している鏡であり、茂さんたちの活動はそんな社会の希望の灯だと思います。

次回は異なる季節にまた東尋坊を訪ねたいと思っています。

NPO法人 心に響く文集・編集局    http://toujinbou4194.com/

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カウンセリングサロンぱすてる

傾聴カウンセラー 喜々津博樹

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